くじらだまの渚くじらです。ボードゲームの制作を「0から始める人向け」の記事、2回目です。
前回の記事はこちら
今回はゲームシステムデザインのお話です。といっても、そもそも作ろうと思った段階で何かしら出したいイメージというのは持っていると思いますので、最初のアイディア出しについての話はしません。システム先行か、イメージ先行か、アート先行かみたいな議論になっていくし、その辺は正直、人それぞれなので……最終的にできればいいやろ!精神で私はいます。
なので、テストプレイと、それを踏まえてどう調整していくかがメインです。
ちなみにCMYK!はアート先行。三角形の三辺にCMYの値割り振ったら何か面白いことできないかな、ってのが始まりです。どういうゲームシステムにしたいとかまったくなかったな!
テストプレイの準備
まったくテストプレイしないで出す人ってのはほとんどいないでしょうが。作ったら実際に回してみましょう。
テストプレイに使えるもの
テストプレイでどの程度までコンポーネントを作りこむか、というのもまた個人差があって、初回のテストプレイでもある程度絵まで作ったほうが体験として正しく判断できるという人もいれば、作り込んでしまうと愛着が湧いて思い切った変更ができなくなるという人もいます。自分のスキルと性格を鑑みて決めてください。
私は作品によってまちまち。CMYK!はタイルがあったので、ある程度作らないとそもそもゲームができない状態でした。カードだけなら手書きで作ることもありますが、手書きよりデータで作ったほうが速かったりするので……。
以下は私がテストプレイに便利だと思うグッズをいくつか挙げていきます。
名刺カード
100円ショップに売っている名刺カードを使う方法。初期のころはこれに印刷した紙を貼って使っていました。ただ、最近は後述の方法の方がラクなので、そちらに移行。直接書き込む場合は非常に便利です。手に持つと透けるけど、置いて使う分にはそれほど問題ないかと。
TCGのカード+スリーブ
カードをスリーブに入れ、表面の方にテストの紙を入れて使う。今はもっぱらこの方法でやっています。間に入っているカードが芯になるので、折れたりしにくい。
マジック・ザ・ギャザリングのカードは、クズカードレアリティの低いカードが数百枚入って500円とかで売ってたりします。他のTCGでもなんでもよい。何なら使ってないドミニオンのランダマイザを使ってもいい。
※ただしドミニオンはサイズがユーロサイズ(59mm×91mm)なことに注意。TCG系はポーカーサイズ(63mm×88mm)が多い。ヴァンガードは59mm×86mm。
裏面が同柄なので、表面だけ作ればとりあえずテストできるのと、シャッフルが圧倒的にしやすいのがメリット。
方眼用紙
ホームセンターとか100円ショップとかにある、小学生のときに使ってたあれ。目盛りがついているので、配置するとき、切るときに大変便利。
慣れないうちは、外箱を一度作ってみたほうがいいと思います。失敗するとこうなる↓
こうなったんですわ。あっぶねえええ気づいてよかったぁぁぁ!! pic.twitter.com/u9RttSzTje
— くじらだま (@kujiradama) September 12, 2018
身蓋の配置を間違えました。あぶない。
ちなみにこれ、タイルの配置も間違ってるので製品版は違う色合いになってますね。
ネオピコボード
タイル系のものを作るときにちょうどいい厚さ。1mmくらい。ただお値段はするので、より本番環境に近い状態になってから使うのがいいと思います。
Amazonは品切れになっているかもですが、ヨドバシさんには売ってます。
タイルとかボードとかは、実際この厚さが必要になるのってそれ自体がプレイアビリティに関係する場合だけなんですよね。スピード系とか。トークンとして使う場合は工作用紙で十分だと思います。ボードなんかは高画質紙に印刷したままでも使えます。
テストプレイのしかた
テストプレイにもいくつか段階があって、
- アイディア出し:このゲームはそもそも成立するのか?面白い部分はあるのか?
- システム選定:様々な要素の抜き差し。大本のシステムを変える場合もある。
- バランス調整:突出して強いものがないか、固定のルートが発生していないか?
- アート:視認性テスト。直感的な配置になっているか?など
- 通しテスト:説明書の解読、製作者・経験者のいない場面でのプレイ
今このゲームがどの段階にいるか、しっかりと見極めて、テスト参加者にも伝えましょう。1の段階にいる人にバランスの話をしても無意味ですし、5の段階にいるのにシステムを変えた方がいいと言われても、無理な話です。
一番簡単なのは身内でのテストプレイなのですが、身内ってのは無限にいるわけじゃないので、「慣れ」だったり「身内評価」だったりが入ってくるんですね。何度も見ているものには愛着も湧いてきますし。ほんとうに面白いかどうか、正当な判断がつかなくなってくる。
そうなったら、新たな意見を求めて外に持ち出しましょう。ある程度形になったらテストプレイ会を探すのがいいと思います。
テストプレイ会
今このご時世なので、だいぶ少なくなっているとは思いますが。テストプレイ会はオープンでも定期的に行われています。
TwiPlaで募集をしていることが多いです。Twitter上で探してみてもいいかもしれません。
最近、ボードゲーム会を称してネットワークビジネスや宗教勧誘をしているケースが見受けられます。参加予定のボードゲーム会のことについては軽くでもいいので調べてから申し込むことをおすすめします。
物騒な世の中なので、自衛できることは自分でやりましょう。お互い嫌な思いをしないためにね。
個人的によく利用するのが、まつながさん主催のテストプレイ会です。
月に2回行われていて、初出展時からゲームができるたびに毎回必ず1回は持っていき、意見をもらっています。ちょっとした工夫でユーザビリティがよくなる提案から、根本的なルールの変更提案まで、かなり深い意見がもらえることが多いです。まつながさんがタイムキーパーをしてくれているのできちんと全員回すことができます。
対面で行う場合はどうしても開催地域が限られてきますので、近い場所から探していくといいと思います。どうしてもない場合は主催するのもいいかと。
オンラインテストプレイ
コロナウイルスの影響もあって対面で会う機会が減っている中、積極的に行われているのがオンラインテストプレイです。場所の確保と移動の必要がないので、遠くにいる人ともできるのがいいですね。近くにそういった会がない人はぜひ取り入れてみるといいと思います。夜遅くまでできるのもメリットですね。準備はちょっと大変ですが。
ひとつだけ大問題があって、リアルタイム系には向かないです。つまりうちには決定的に向かない。悲しい。
オンラインに適したツールがいくつかあるので軽く紹介したいと思います。
Tabletop Simulator
かなりリアルな見た目と物理演算を実装できるシミュレータ。Steamで使えます。有料だけど、たまにセールしてるので激安で買えることがある。
本格的なボードゲームになればなるほど、Tabletop Simulatorを使った方が分かりやすくなるので、ボードやらコマやら大量に使う場合は検討の価値あり。
全員が持ってないとできないのが難しいところ。
BGEngine
無料で使えるテストプレイ環境。Twitterなどでのログインが必須。
カード、ダイス、タイルなどボードゲームに使いそうなパーツは一通り揃ってそうな印象。見た目はシンプルだけど、操作は直感的で簡単にできる。
ユドナリウム
こちらも無料で使用可能、さらにログインは不要。どちらかというとTRPG向けという印象ですが、場合によってはボードゲームでも使える。パーツは少なめ。トランプの山札画像を入れ替えることでカードの実装は可能。
ログインが不要の代わりに現在の状況をzipで保存するため、誰でも複製ができてしまうところがセキュリティ的にどうなのという意見はあった。オープンな場でやるときは、データを盗用されないような工夫は必要かも。
Tabletopia
私は使ったことないのですが、使い勝手がよいとの話。英語なので読める方は候補に入れてもいいと思います。
もしオンラインテストプレイがしたい!という方は、(時間は限られますが)お声がけいただければ参加できますので、ぜひ。
情報の取捨選択
外でのテストプレイに持っていくと、様々な意見をもらえると思います。ただ、すべての意見を取り入れていたら纏まるものも纏まらないし、方向もバラバラでかえってテンポが悪くなって面白くなくなったりします。
もらったアイディアをどういうふうに選んでいけばいいのか?その話について少し。
ペルソナを決める
ここで、具体的なターゲットについて考えてみましょう。
どういう人に、どこで手に入れて、どういう場所で遊んでもらうか。
本当は最初から決められればいいんですけど、ルールが固まらないうちに設定するのはなかなか難しいと思いますし、このルールを採用した方が面白そうとなったときにターゲットがズレることがあります。なので、柔軟に変更してかまいません。
(´ー`)<最終的に辻褄が合えばいいんだよ!
逆に企業案件なんかはそれがカッチリ決められています(だよね??)。なのでそのターゲットに合わせたシステムデザインをしていくと思いますが、まぁ同人なのでね。思いついたものを面白いようにしてターゲットをゲームに合わせていってもいいと思う。最終的にそのゲームを求めている層に届けば何も問題ないかと。この辺はデザインとか売り方とか後付けで何とかなる。(と思っている)
例)
- ゲーマーの、コンボを考えるのが好きな人向けゲーム
- ボードゲームカフェで、初めてきたカップルがやる2人用ゲーム
- 幅広い人数に対応できて、ゲーム会で回せるゲーム
- 軽くはないけどそんなに難しくなく、やった感が出るゲーム
ペルソナというよりゲームの方で例を出しましたが、どちらでも設定できれば問題ないかなーと。
ちなみにCMYK!のペルソナは
- アズールとかサグラダの見た目に惹かれた人、終了後に写真を撮りたい人
- パズルゲーム好き
- 普段そこまで重ゲーをやらない女性
CMYKに親を殺された絵描きさん
……なんで絵描きさんはCMYKにそんなに恨みを持ってるんだ?
アズールとサグラダは大好きなのでね、影響は受けてます。ちなみに女性というのはペルソナの話であって女性はこういうの好きやろ、って話ではない。
あとペルソナとはちょっと違うけどTRPG層にはやたらと響きましたね。この項目の中に入ってくる人が多いのかしら。
ペルソナに沿ったシステム選定
もらった意見を採用するか否か、前述の設定したペルソナと照らし合わせてみましょう。とりあえず全部試す、でもいいと思いますが、その意見を採用したことにより体験がどのように変化したかはきちんと把握した方がいいです。
例えば、ボドゲカフェのボードゲーム棚からザッピングして見つける人に120分ゲームはどうなのという話。時間的制限がある中でやるには選ばれにくいかと(基本的に重ゲーは、ゲームを認識していて、それをやろうとして自発的にやる場合がほとんどだと思うんですけど、どうですか?)。
他にも、カップルでやるゲームで直接攻撃しまくりなシステムはその後の雰囲気がどうなるかまで考えたらやらない方がベターでは?とか。まあそれはそれで、クリスマスにSchool Days薦めるみたいな面白さはありますけど、その後の評価は保証しないです(´ー`)
実際に出る意見はもっと細かい話が多いと思いますが、それが全員にとってメリットのあることなのか、ゲーム性が変わるものなのか、ターゲットまで変わってくるのかを考えるだけでもだいぶ見通しがよくなるかと。難しいよね~わかる~( ;∀;)
あとはこれは個人的な意見ですが、同じことをやるなら時間は短い方がいいと思っています。圧縮できるところは極力削ってシンプルに。時間は有限なのでね。
CMYK!の変遷
初期
冒頭でも言いましたが、CMYK!はアート先行でした。これは私の中でもかなり特殊なパターンで、それ以降の作品では使ったことはありません。
一番最初のテストプレイ段階のは消してしまったみたいなので残っていないのですが、数値を20刻みにするところは変わってなく、ただCMYの組み合わせは全パターン(0,20,40,60,80,100の6通りの3乗=216通り)から適当にしょっぴいてそれぞれの数字が同じ数になるようにしたと思います。モックを作る段階で、表とイラレのカラー値を照らし合わせながら気の遠くなるような配置をした記憶はある。
当時の色の組み合わせを適当に再現してみたのが下の図です。
色が汚いんだよなぁ……( ˘ω˘)
CMYの合計値が高くなれば濃くなるのでそりゃそう、としか言いようがないのですが、どうしても全部の数値を同数にしようと思ったら濃くならざるを得ないものもあるわけで。
ただ、これがきっかけで、CMYの合計値を縛ったらどうか?というアイディアが浮上します。
色を綺麗にしよう
=CMYの合計値を120に抑えよう
=CMYの数値の数量に偏りが出る!
となったわけです。これが逆にいい感じになり、枚数もC+M+Y≦120の条件を加えると81通りとなって使いやすい&予算におさまりやすい数に。偶然の産物ですが。
とりあえず私は、黄土色地獄でやる気が落ちてたので、綺麗な色ばっかりになったことでひとまずは満足した。(ゲームとは?)
中期
当初出す予定だったボードゲームグランプリ提出のゲームが予算的に厳しい&もう少し調整した方が良いという話になったあたりで、CMYK!の方をどうにかしようという方向になります。たしか7月中旬。初出展でやるスケジュールじゃない(;´∀`)
初出展ということでとにかく予算との兼ね合いがあったので、それを加味しながら様々なものを試しました。
最初は全員でひとつの場所に繋げる方法(1型)。実は最初はタイルにもう少し要素があって、CMYの最大値のマークが書いてあり(C=20、M=40、Y=80だったらY)、同じマークを繋げたら得点みたいなことを考えていました。が、数えるのが超絶めんどくさいのと、タイルの情報量が多くなるのでボツ。
次はお題の形を作って、得点していく方法(2型)。これはデータが残ってた。
この上にタイルを乗っけていくタイプなのですが、このゲーム、六角形を作るところに異常に労力がかかるんですよね。得点の重み付けが難しかったのと、カード自体の大きさを確保しないとお題が作れなくて、そうすると変形サイズになって予算が……。小さいカードに小さくお題だけ書く方法もやってみましたが、どうにもやりにくい。ということでこれもボツ。
NEBUTA BEATのときもそうなんですが、割と私はガンガンシステムを変えていくタイプみたいですね(→NEBUTA BEATのデザイナーズノートはこちら)。
これがいいかどうかは人によるし、軸があっての変更じゃないと、それこそ作りたいモノがぶれっぶれになる気がします。
後期
今の全体お題スタイル(3型)ができたのは、NEBUTA BEATの初期型にうつつを抜かしていたころです。ザ・サグラダ方式。
全体お題のいいところはですね、バランス調整をしなくていい。しなくていいって言うと語弊があるかもですが、細かい調整をしなくても全体にかかってくることなので、引き運による不公平感が出ない。
結果この形が面白い、という話になって、そのまま進みました。ちなみに2型のテストから3型のテストまでは1週間。すべてお盆期間中の話。
ワイルドカード(Kタイル)については、いつ採用されたか定かではないのですが、六角形を作るのが大変なのと、絶対に完成させられない局面になることがあるということで救済措置的に入れたと思います。ただそのまま入れるだけだと取り合いになるだけなので、デメリットも付け加えた、と。
その後は得点方式やらお題やらで調整はしましたが、大きくは変わってません。得点調整の方法ですが、六角形を作るのが強いという大前提は崩したくなかったので、それを軸に加点方式にしました。出るカードによっては六角形の点数は下がってしまいますけど、それも2倍やら打ち消しやらで戻ることがあるので、基本は六角形作っておいた方がいいと。
フレーバーがついたのはかなり後になってからです。どんどんお題が増えたり変わったりするところ、仕事っぽいよね~クソみたいなクライアントだよね~って話になり、そこからプレイヤーはタイル工になり……みたいな。ぜひ顧客の理不尽さを思う存分味わってくださいw
さて次は印刷の話です。